SUS304 切削加工 条件の決め方【現場で使える実践値まとめ】
実際の切削条件は素材・機械・工具の組み合わせにより大きく異なります。少量のテスト加工で確認してから本加工に入ってください。
SUS304は「削れる」が「うまく削れない」
月曜の朝、マシニングセンタの前で首をかしげている後輩がいた。
「先輩、カタログどおりの条件でやったんですけど、3本目でエンドミルが欠けました」
SUS304。オーステナイト系ステンレスの代表格で、製造現場でもっとも出番が多い材種のひとつだ。耐食性に優れ、食品機械から化学プラントまで用途は広い。ただし、削るとなると話が変わる。
カタログの推奨条件はメーカーの試験室で出した数字。自社の機械、自社のクランプ、自社のクーラント事情とは違う。ここに落とし穴がある。
SUS304が厄介な3つの理由
1. 加工硬化が激しい
SUS304の最大の特徴。削った表面が硬くなる。
普通の鋼材なら硬度HV150〜200程度のところ、SUS304は切削後にHV350を超えることがある。前のパスで硬化した面を次のパスで削ることになるから、工具の摩耗が一気に進む。
対策はシンプル。1パスで十分な切込み量を確保する。ビビるからといって切込みを浅くすると、硬化層の上を滑って余計に状況が悪化する。旋削なら最低0.5mm、フライスなら0.3mm以上が目安だ。
2. 構成刃先ができやすい
切りくずが刃先に溶着する。SUS304は粘り気が強く、切削温度が上がると工具に付着して「偽の刃先」を作る。構成刃先が成長→脱落を繰り返すたびに、仕上げ面がガタガタになる。
これを防ぐにはいくつかのアプローチがある。
- 切削速度を上げる: 低速が一番危険。旋削ならvc=120m/min以上で構成刃先が減る
- コーティング工具を使う: TiAlNコートが溶着を抑える
- クーラントを惜しまない: 水溶性切削油を高圧で刃先に当てる
「低速でゆっくり削れば安全」は、SUS304では逆効果だ。
3. 熱伝導率が低い
SUS304の熱伝導率は約16W/m・K。普通鋼の約1/3しかない。切削で発生した熱がワークに逃げず、刃先に集中する。
だから工具寿命が短い。同じ条件でS45Cなら60分もつ工具が、SUS304では20分で限界を迎える。そういうものだと割り切って、工具交換のインターバルを短く設定したほうが結果的にトータルコストは下がる。
加工別の推奨条件
10年間で200パターン以上試した中から、安定して結果が出た条件をまとめた。機械剛性や工具メーカーで変わるから、ここを起点に±10%で調整してほしい。
旋削(NC旋盤)
| 項目 | 推奨値 | 備考 |
|---|---|---|
| 切削速度 vc | 120〜180 m/min | 加工硬化を避けるため低速NG |
| 送り f | 0.1〜0.25 mm/rev | 仕上げは0.05〜0.08 |
| 切込み ap | 0.5〜3.0 mm | 最低0.5mm確保 |
| 工具 | CVDコート超硬 or サーメット | TiAlNコート推奨 |
| クーラント | 水溶性 10〜15倍希釈 | 高圧推奨 |
| ノーズR | 0.4〜0.8 mm | 仕上げはR0.4 |
チップのブレーカは「M型」が無難。SUS304の長い切りくずを処理しやすい。
フライス(マシニングセンタ)
| 項目 | 推奨値 | 備考 |
|---|---|---|
| 切削速度 vc | 100〜150 m/min | エンドミルは低めから |
| 1刃送り fz | 0.05〜0.15 mm/tooth | 薄すぎると加工硬化 |
| 軸方向切込み ap | 0.3〜2.0 mm | 側面加工時 |
| 径方向切込み ae | 工具径の30〜50% | フルスロットNG |
| 工具 | 超硬3〜4枚刃 TiAlNコート | 不等リード推奨 |
| クーラント | エアブローor水溶性 | ミスト不可の場合はエアブロー |
フルスロット(ae=100%)はSUS304では避ける。切りくずの排出が追いつかず、再切削で工具が欠ける原因になる。
穴あけ(ドリル)
| 項目 | 推奨値 | 備考 |
|---|---|---|
| 切削速度 vc | 15〜25 m/min | 旋削より大幅に低い |
| 送り f | 0.05〜0.15 mm/rev | 深穴は0.05 |
| ステップ量 | 1D〜3D | 深穴はペック加工必須 |
| 工具 | 超硬ドリル TiAlNコート | ハイスは短寿命 |
| クーラント | 内部給油推奨 | 穴底への確実な供給 |
穴あけが一番トラブルが多い。「ドリルが折れる」の大半はクーラント不足と送りの問題。穴深さが3Dを超えたらペック加工に切り替える。
現場で効くトラブルシューティング
症状: 仕上げ面がむしれる
原因はほぼ構成刃先。切削速度を20%上げて試す。それでもダメならコーティング工具に変更。ノーズRを小さくするのも効果がある。
症状: 工具が異常摩耗する
加工硬化層を削っている可能性が高い。切込み量を確認。0.3mm未満なら増やす。「怖いから浅く」は逆効果。
症状: ドリルが折れる
深穴ならペック加工に変更。浅穴なら送りを落とす前にクーラントの吐出量をチェック。内部給油のドリルに切り替えるのが根本解決。
症状: ビビリが出る
ワークの固定を確認。SUS304は粘いから、切削抵抗が大きくなりやすい。突き出し量を短くする、回転数をずらす(共振回避)、不等リードのエンドミルに変える。順番に試す。
1つだけ覚えるなら
SUS304の切削で一番大事なことは、逃げないことだ。
切込みを浅くしない。速度を落としすぎない。クーラントをケチらない。加工硬化という現象を理解した上で、「しっかり削る」が正解になる。
最初の3本くらいは工具を犠牲にして条件を探る覚悟がいる。だが一度安定条件が見つかれば、SUS304は安定して削れる材料だ。そこまでの試行錯誤を惜しまないことが、結局は一番の近道になる。